2012年9月29日土曜日

【千葉】
「自立への施設に」
生活保護の無料低額宿泊所問題

 
 生活保護の受給者を集合住宅などに住まわせ、保護費を不当に天引きするケースがみられる「無料低額宿泊所」問題。貧困ビジネスをめぐるトラブルは依然として続き、保護費の返還を求め、県内で新たに提訴の動きもある。問題点が指摘されながら、対策はなかなか進まない。訴訟に関わる弁護士は「受給者が自立できる施設にするべきだ」と強調している。 (白名正和) 

 「無料低額宿泊所にいると働く気がなくなっていく」。県内の宿泊所を二〇一〇年七月から二カ月間利用した経験のある男性(60)は、宿泊所での生活をこう振り返る。 

 建物解体やハウスクリーニングで生計を立てていたが、肺気腫を患い退職を余儀なくされた。貯金の百万円は医療費や宿泊費に消えた。市に生活保護を申請した際は住む場所にも困っていて、宿泊所の存在を教えられた。宿泊所での「自室」は、2LDKの居室のうち、六畳間をボードで半分に区切っただけの、二畳半ほどのスペース。居室全体は五人の共同生活の場となっていた。家賃は一人四万六千円を徴収された。

 ほかにも、朝晩の食費などを取られ、月の保護費約十二万円のうち手元に残るのは三万円。貯蓄はできず、部屋に鍵がないためプライバシーもない。朝早くから働き口を探しに出かけても、同居人に夜更かしされて心身が休まらない。

 男性は「立ち直ろうという気持ちがそがれるだけだ」と二カ月で退所し、アパートを探してパートの働き口も見つけた。定収が入るようになり、生活保護だけに頼る生活から、徐々に脱しようとしている。 

 男性と前後し、同じ宿泊所に約一年いた入居者ら三人も退所。男性ら四人は六月にも宿泊所を相手に、保護費の返還などを求める訴訟を千葉地裁に起こす考えだ。無料低額宿泊所は本来、社会福祉法に法的に位置付けられた施設だ。所管する厚生労働省によると、一〇年六月末現在で全国に四百八十八カ所あり、生活保護受給者約一万四千人が利用する。県内では、五十四施設を二千四百人が利用しているとみられる。

 無届け施設も多く存在する。年越し派遣村後の〇九年ごろから、入居者が生活保護費を不当に取り上げられていた事例が、全国的に相次いで発覚した。

 県内では一〇年二月、千葉市内で無届け施設を運営する任意団体に対し、元入居者が保護費の返還を求めて提訴。今年四月に実質的に一部保護費を返還し、他の入居者にも今後は「施設が生活保護費や預金通帳を管理しない」と約束することで和解が成立した。 

 裁判を担当した常岡久寿雄弁護士は「貧困ビジネスに関する民事事件では、初めて出た法的な結論。宿泊所の規制にも役に立つ内容」と強調する。

 宿泊所をめぐっては、届け出だけで設置でき、行政の監視が届きにくい問題点が指摘されてきた。設置を許可制にする対策も挙がっているが、「議員立法が検討されている」(厚労省)という段階で、実現に至っていない。 

 生活保護の受給者は、今年二月時点で二百九万人を超え、過去最多を更新し続けている。常岡弁護士は「宿泊所は、生活保護の受給者が自立するための施設だが、保護費を取り上げられていては就職活動もできない。利用者が立ち直るための施設という原点に返り、運営方法などを考えなければいけない」と強調した。

────東京5/27────

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