2012年10月24日水曜日

来夏は役場の電力自給
大多喜町の小水力発電

 鮮やかな緑が清流の水面に映える観光地の千葉県・養老渓谷。ここで人口約一万人の大多喜町が、小水力発電の計画を進めている。来年八月までの稼働を目指し、完成すれば町役場の消費電力を自給できるようになる。自治体の小水力発電は県内で初の試みだ。 

 予定地は、養老川沿いの約二千四百平方メートルの土地。計画では、渓谷の約四十五メートルの高低差を利用し、落ちてきた水の勢いで発電機を回す。発電量は最大五十キロワットを見込む。 

 この場所では、昭和三十年代まで東京電力が水力発電を行い、周辺に電気を供給していた。水力不足などから東電は撤退し、町が土地を譲り受け、跡地を浄水場の一部として使っていた。既存の導水路などがあることが、今回計画に乗り出した大きな決め手だった。

  発電した電力を町で使うか、東電に売電するかは決まっていない。仮につくった電気を、七月に始まる「固定価格買い取り制度」で売電すると、年間約千二百万円の収入が見込める。庁舎と浄水場の電気料金は年間約七百万円。つくった電気を直接使わなくても、使用料分は回収できる計算だ。 

 町によれば、年間維持費は約千二百万円かかるが、リース期間(八年)後は町の所有施設になるため、十分の一程度に抑えられる。担当者は「将来は利益も見込める計算」と期待を込める。町の観光資源は将来の節電に大きく貢献しそうだ。 
 
 大多喜町の小水力発電は、市原市能満にある「新工法開発研究所」が開発した発電技術が生かされている。同市の田淵川にある実験発電所では、川から毎秒〇・〇五立方メートルの水を引き込み、一般家庭四軒分の電力をまかなえる三・五キロワット(最大五・五キロワット)を発電している。

 同研究所の装置は、水車を横にして二つ並べ、その間に水を通し、増速機で回転数を上げて発電機を動かす。後ろには三つ目の水車が待ち構え、残った水の勢いを再利用する。少ない水量でも効率良くエネルギーを生み出せる仕組みは、他に例がないという。 

 二〇〇六年に開発に着手し、一〇年に三カ月の実証実験を実施。これまで二百近い自治体が視察に訪れ、一般の見学者は三百人を数えた。大多喜町のほか、九州で発足した市民電力会社も導入を決めているという。

 小水力発電の利点は、水の流量と一定の落差があれば、どこでもできること。山と川が豊富な日本には適している。川本正男所長(63)は「川の水は減らないし汚れない。自然環境を守れる。ランニングコストのかかる地熱などと違い、小水力の施設は一年に二回メンテナンスをすれば、四十~五十年は使える」とメリットを語る。

 資源エネルギー庁などによると、電力事業者や自治体などによる小水力発電施設は全国に四百八十カ所(出力一千キロワット未満、二〇一〇年三月時点)。近年は商社や地域の建設会社など民間業者の参入が目立つという。 
 
 節電の夏が来る。今年も各自治体が趣向を凝らした節電対策に乗り出す。既存の電力に頼らない自然エネルギーによる発電に力を入れる自治体や市民グループもいる。行政が、市民ができる脱原発を追った。

────東京新聞 6/12────

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